ブレンディッドラーニングの運営キーパーソンに訊く
オンライン研修の成功を支える舞台裏とは

新型コロナの影響を受け、研修のオンライン化を検討する企業が増えています。オンライン研修は、なくてならないものになっていくと考えられますが、「研修をオンライン化したが、思うような効果を感じられなかった」「これから研修のオンライン化を検討したいが成功させるにはどうしたらよいか」といった声も聞かれます。そこでコロナ前よりブレンディッドラーニングの運営をサポートしてきたお二人に、オンライン環境に対応するうえで考えなければならないポイントを語ってもらいました。

【出席者】

話し手:オンライン研修運営サポート
鈴木 舞
木村 保絵

聞き手:トレーニングパフォーマンスコンサルタント
渡邉 規和

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オンライン研修では「リアルに必要な仕事プラスワン」が求められる

渡邉 お二人はブレンディッドラーニング*のさまざまオンライン研修で運営サポートをされています。私も普段ファシリテーターとして支えてもらっている側の立場なのですが、裏方として関わるなかで、オンライン研修について今どのようなことを感じていますか? 

 

鈴木 コロナ以前とコロナ以降の違いを感じます。以前は、同じ研修でもファシリテーターが変わると研修の運営が変わるということがありましたが、コロナ以降は裏方台本のようなものを用意してベースをある程度決め、どんなアドリブにも対応できるような姿勢で本番に臨むことが当り前になってきつつあります。それをするにはファシリテーターも含めて、関わるスタッフ全員の理解度を同じにしておくことが必要で、お互いの確認をより綿密に行うようになりました。

 

木村 運営に携わる前は、オンラインはリアルの簡素版とのイメージでした。ところが実際やってみると、全部の作業に〝リアルに必要な仕事プラスワン〟が必要になってくることがわかりました。受付にしてもグループワークにしても、リアルの集合研修と同じ作業に加えて、オンラインだからこその追加作業が必要になります。オンラインだから手がかからない、少人数で運営できるだろうという想像とは違っていました。

サポートで大事なのは研修の流れをいかにスムーズにするか

渡邉 サポート面で特に意識してやっていることはありますか?

 

木村 私自身の経験としてもあるのですが、受講者として研修に参加すると、聞いているつもりが聞き逃していたりして、研修についていけないことがあります。ですので「○ページを開いてください」などのアナウンスをチャットで出すときは、受講者の気持ちになって「自分だったらここで出してほしい」と思うタイミングで出すように気をつけています。

 

鈴木 オンラインは画面で見ているものなので、30秒でも進行が止まってしまうとスムーズさを感じなくなってしまうんですね。その 30秒の停滞で研修の雰囲気がガラリと変わってしまうこともあるので、とにかくスムーズに流れていくことを一番に考えています。

 

木村 流れが止まってしまうとファシリテーターも焦りますよね。その焦った様子を受講者全員が見ているため、「ファシリテーターが何か失敗したのかな?」という印象を与えてしまい、受講者とファシリテーターの信頼関係にも影響しかねません。オンラインでは回線が切れたり、状況が変わったりといった不測の事態も起こります。たとえば何かの設定が変わったという場合、設定変更をしている間に運営サポート側であえて「この作業は今私がやっています」「今すぐ変えますね」と声を出して状況を伝えるようにしています。

 

鈴木 声を出すことでファシリテーターも場をうまくつなぎやすくなる効果もあります。それからファシリテーターも一人ひとりクセが違いますから、「台本はこうだけど、こういう方向に行きそうだな」を想定して準備しておくことも大事です。受講者はファシリテーターを見ていますから、ファシリテーターが気持ちよく進められないと、受講者の集中力も途切れてしまい、研修の狙った成果に近づけなくなるので、ファシリテーターの特徴も把握するようにしています。

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オンライン研修ならではのプラス面は?

渡邉 オンライン研修の良さはどういうところにあると感じますか?

 

木村 ファシリテーターの人柄や熱意はオンラインのほうが伝わる気がします。リアルの研修だと、「この人どういう人なんだろう?」といった余計な情報が入ってきやすいのですが、オンラインは画面でずっと顔を見ているからなのか、「受講者をとても大事に思っているんだな」「プロ意識がすごく高いな」といったことがダイレクトに伝わりやすいように感じます。もうひとつ、運営サポートとして受講者の様子を見ていて感じたのは、チームワーク構築にはむしろオンライン研修のほうが向いているのではないかということです。Zoom®上で初めて会った人同士でも、グループに分かれてチームワークを重ねていくなかで、最終日にはすごく絆が深まっていることが多い。自己分析・他己分析でも本人と周りの見方にズレがありませんし、オンラインでも人柄は伝わることがわかりました。

 

渡邉 そこでは何が起きているんでしょうね。

 

鈴木 画面を通すと目の表情が普段より読み取りにくいですよね。目が語る情報を読み取れないことで、「相互理解のためには発言をしないといけない」と多くの受講者が自然と思うのかもしれません。ブレイクアウトセッション*でも「言葉に出さないと何も進んでいかない」とみんなが感じて、意識して発言するようになる。そこから絆が深まっていくのではないかなと思います。

 

渡邉 人がいるから頑張れるといったピアプレッシャーはオンラインにはないんじゃないかと言われていましたけれど、そんなことはないとわかってきました。オンラインでもチーム活動がこんなにうまくできるということはもっと広めていきたいですね。

成功させるポイントは細かな事前確認と学びのための仕組みづくり

渡邉 オンライン研修を成功させるには、どのようなことが大切だと思いますか?

 

鈴木 オンラインは退室ボタンを押した瞬間、研修のことを忘れてしまうことができます。リアル研修のような終了後の余韻があまりありませんから、そこも含めて記憶に残る仕組みを作っていくことが成功のひとつのポイントだなと思います。

 

木村 リアルの研修では意思・意欲がそれほどなくても、参加して話を聞くだけ、その場の熱気に触れるだけで学びや刺激を受けたりできます。〝偶然起こること〟が学びや気づきにつながりやすいのですが、オンラインではそれが起きにくい。そのため、〝偶然起こること〟を意識して、意図的に設計する必要があるのかなと思います。

 

渡邉 なるほど。オンラインでは五感のうちの視覚と聴覚しか使えない分、セレンディピティが起こりにくい。だからこそ意図的にいろいろな仕組みや仕掛けを組み込んで、意欲や意思を引っ張り出す必要があると。最後になりますが、運営に携わる方に向けてのアドバイスがればぜひお願いします。

 

鈴木 集合研修でも同じだと思うのですが、運営サポートする人は、ファシリテーターとセッションサマリーを見て、途中で入るスライドも照らし合わせながら、自分流の台本を作っておくほうがよいと思います。実際に研修が始まると、確認や対応に追われます。たとえばオンラインの接続が切れてしまった人がいた場合、そちらに専念してしまうと進行の手助けはまったくできなくなってしまいます。もし、事前に台本があれば乗り越えられますよね。それから運営サポートは、できれば2人いるほうがいいと思います。

 

木村 確認を細かく行っておくことは集合研修以上に必要です。たとえば、どのタイミングでボタンを押すのか、誰がチャットをあげるのか、「それぐらい、その場対応で大丈夫だろう」と思わないで、とにかく細かく決めておく必要があると思っています。そうしないと、同じチャットが数人から立て続けに上がって、受講者の気が削がれてしまったりしますし、オンラインは集合以上にタイムキープがきっちりになってくるので、1分の誤差がファシリテーターにとっては負担になると思うんです。そういう意味でも細かい確認はとても大事だと思います。

 

渡邉 企業研修の場合、現在は集合をオンラインに置き変えていく途中段階であることを考えると、相当意識して仕組みを作っていく必要があるかもしれません。仕組みや仕掛けを考え、チャットのタイミングであったり、ブレイクアウトセッションへのつなぎであったり、いろいろな部分をチームで支え合って回していくことが、オンライン研修を成功させる大事なポイントになりそうですね。どうもありがとうございました。

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※ブレンディッドラーニングとは、学習成果を目標に、あらゆる学習要素を組み合わせて学びを提供する新しい学びのスタイルです。

※ブレイクアウトセッションとは、ZOOM®のブレイクアウトセッション機能を使用し、参加者を小部屋に分ける操作です。

プロフィール

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鈴木 舞
教育現場での勤務実績多数。米国への2回計5年の留学を経て、短期大学の就職課にて勤務後、企業の研修所にて教育担当との綿密な打合せに基づく学習が進む場づくりを実践。
その後、大学のランゲージラボラトリーの立ち上げ、場づくりをリード。学生が自然に集い学習する場を作り上げた。2018年からは、夫の介護と"はたらく"を両立できる働き方として、テレワークを選択。テレワークでも学びがすすむ場づくりができることに手ごたえを感じながら実践中。
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木村 保絵

北海道函館市出身。大学卒業後、フィリピンでNGO団体に所属。現地の青少年と日本の大学生の異文化理解ワークショップ等を企画・運営。2年間活動したのち帰国し、北海道で国際交流センター職員やラジオ局のパーソナリティ、新刊書店の店舗責任者等の仕事を経て、2019年より現職。新しい学びの提供、ブレンディッドラーニングを中心に仲間とともに充実している日々を過ごしている。ブレンディッドラーニング・ファシリテーター養成講座6期生。

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渡邉 規和

トレーニングパフォーマンスコンサルタント

人材ビジネス会社にてマネジメント職、支店長を経て、BPO事業のプロジェクトマネジャーとして複数の新規受託案件立上げに従事。その後、事業会社人事、組織人事コンサルタントを経て、2018年より現職。営業スキル研修、マネジメント研修、若手育成、コーチング等を担当。加えてオフライン(リアル)・オンライン(バーチャル)をはじめあらゆる学習要素を組み合わせるブレンディッドラーニングファシリテーターでもある。ブレンディッドラーニング・ファシリテーター養成講座5期生。

新型コロナの影響を受け、オンライン研修のご相談を頂く機会が増えて参りました。弊社では、ただ既存の研修をオンラインにするのではなく、学習成果と照らし合わせて、様々な学習要素と組み合わせて考え、ご提供することを重視しています。また、さらに効果的な学習ブレンディッド・ラーニングが提供できるファシリテーターの育成講座も提供しています。
詳しい内容は“ブレンディッド・ファシリテーター養成コース”をご覧ください。

執筆者紹介

中村 舞衣子

ラーニング事業本部
事業推進部マーケティンググループ

中村 舞衣子

Maiko Nakamura

2007年富士ゼロックス総合教育研究所(現 パーソル総合研究所)へ入社。営業、広報(PR)を経て、現在、BtoBのWebマーケティング担当として従事。Webサイトの機能改善からウェビナーなど各種プロモーション施策の企画・実行まで一気通貫して務める。現在、MAとWebマーケティング施策によるデータ連携を通じ、自社CRM(SalesForce)の構築に邁進中。

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