第5回:オンライン環境での営業プロセスの可視化、支援業務の在り方

新型コロナの影響を受け、BtoBの営業も大きく変わろうとしています。

そこで本連載ではシリーズテーマ「テレワーク時代のBtoB営業組織のあり方」として全5回のコラムをお届けいたします。

第5回は、オンライン環境での営業プロセスの可視化、支援業務の在り方について考えていきます。

目次

オンライン環境だからこそ重要な標準営業プロセスとは

これまでの連載第1回から第4回で述べてきたように、テレワーク化の進展によって営業や営業マネジメントのあり方が大きく変わり、かつオンライン環境でお互いが何をしているかを把握しづらい状況が常態となりました。

 

営業を取巻く環境においても

 ・景気が落ち込んでいる

 ・お客様も(テレワークなどで)不在が多く、容易に会えない

 ・お客様との情報格差がなくなり(お客様も容易に情報を得られる)、商談の早い段階では呼ばれない(気軽に相談されない)

といった変化があり、〝新規商談が発生しづらい〟状態にあると言えます。

 

結果として、営業担当者は〝もっと攻めて〟新規商談を獲得しなければなりません。もちろんMA(Marketing Automation)ツールなどを駆使して新規リードの獲得と育成を行うことも重要ですが、そういった活動自体も営業担当者とマーケティング担当者が有機的に連動し、組織として、より〝攻め〟に向かわなければならないと思います。

 

反対に、〝攻める〟行為により多くの時間を割くためには、それ以外の行為に費やしている時間を軽減しなければなりません。

また、「オンライン面談」によって営業担当者だけではなく、「営業アシスタント」や「その他支援者」「マネジャー」の商談参画も容易になるため、ポジティブに対応できた場合は、営業生産性の向上が見込めると考えられます。

 

そこで今回は、より〝攻める〟ことを組織的に定義するための「標準営業プロセスマップ」と「付帯業務の切り分け」について解説します。【図1参照】

 

BtoBsales05_図1.png

 

営業活動の地図となる標準営業プロセスマップの作成

まず、営業活動や商談活動をマネジメントするうえで欠かせないのが〝営業活動に対する共通の認識〟になります。例えば「提案をする」という活動をとってみても、その解釈は人それぞれです。「とりあえずお見積りをご覧ください」といって営業個人の判断で出した概算見積も、「組織として正式に検討するため」にお客様から依頼されて出した詳細な見積も、同じ「提案」となってしまう場合があります。

このような認識のバラツキがある状態では、営業担当者自身の営業活動と、利用する様々な「ツール」や営業アシスタントによる「支援業務」、営業マネジャーによる「マネジメント」とを効果的に連動させようとしても、上手くはいきません。

 

そこで、あらゆる営業活動の「基準」となる明文化された「地図」のようなものが必要になります。それが「標準営業プロセスマップ」です。【図2参照】

 

BtoBsales05_図2.png

 

その構成要素は、「営業フェイズ」「フェイズの定義」「フェイズゴール」と、各フェイズにおける「お客様の期待」、その期待に応えるための「主要な活動内容」です。

 

特に重要なことは、第一に各フェイズにおける「お客様の期待」を考える、ということです。

継続商談であれば、トータルとして良い印象が残れば(たとえそれが営業行為でなく、商品力によるものであっても)商談は続いていきますが、新規の商談であれば、ある一つのフェイズのお客様の期待に応えられなければ次のフェイズに進むことはできません。

 

そして、必要に応じて、「お客様の期待に応える活動」をするために「活用するツール」「必要な支援業務」「必要なマネジメント」などを、マップに追加していきます。

 

また、これまで「こんな問題があるのだけど…」というような「ぼんやりとした相談」の形で「引き合いの素」がお客様側から提供されていたとすると、それは商談が「課題共有」のフェイズからいきなり発生したことになります。そのような状態に慣れてしまうと、いざ〝攻めろ〟と言われても具体的な活動に結びつきません。そこで、商談活動には「事前準備」や「興味喚起」といった段階(フェイズ)が存在し、そこにはこれだけの「お客様の期待」や「期待に応える活動」が存在することを明示することにより、具体的な行動を促すことができます。

 

こうした「標準営業プロセスマップ」は「標準」とはいうものの、「こうあるべき」という〝ストレッチ〟した活動を記述するもので、ハイパフォーマーを集めてワークショップ形式で共に検討しながら作成していきます。また皆がマネできるような再現性のある活動内容でなければならないので、ハイパフォーマーといっても「天才タイプ」ではなく「実直な秀才タイプ」が望ましいと考えられます。

また「一部の人だけで作った」という形になると、他のメンバーのコミットメントが得られないので、「お客様の期待」を仮説として定義したら、「本当にこのような期待があるか」をワークショップに参加していないメンバーも含めて実際のお客様に確認しに行くということも有効です。それにより実に多くの気付きを得ると同時に「自分たちのもの」としてのコミットメントとオーナーシップが得られます。

 

付帯業務の切り分け

〝攻める〟ために〝やること〟を決めたら、次はその活動に集中するリソースを捻出するために。営業現場における「付帯業務」を削減しなければなりません。

 

前述した「標準営業プロセス」は〝現状〟ではなく、より〝ストレッチ〟した内容でなければなりません。よく付帯業務だけに焦点を当ててしまうと「あれもこれも」となり、収拾がつかなくなりますが、そういったことを防ぐためにも「この業務がなければこの(ストレッチした)活動ができるのに」という感じで、紐づけて付帯業務を整理します。それにより、付帯業務の削減効果を想像したうえで優先度を判断し、かつ秩序立てた議論ができるようになります。

 

まず、各フェイズに付随する「負担業務*」を洗い出します。

 *「負担業務」とは単純に営業担当者が「負担」と感じている業務で、本来は営業担当者がやらなくてもよいかもしれない「付帯業務」とは区別しています。

 

それを次の2つの視点で整理し、4つの象限に分割します。【図3参照】

その作業には「個別のお客様の情報」を理解していなければならないかどうか(個別/共通)、そしてその作業には「専門的な知識」が必要かどうかです(専門的/一般的)。

 

BtoBsales05_図3.png

 

【図2】【図3】に示した「標準営業プロセス・負担業務の切り分け・付帯業務一覧」のサンプルを公開しております。

【資料ダウンロードフォーム】よりお申込み願います。

 

①は、共通の知識(個別のお客様の知識が必要なく)と一般的な知識で対応できるもので、事務センターなどで対応可能な「効率化・代行業務」です。

②は、共通の知識で対応可能だけれども、専門的な知識が必要な「専任化業務」で、技術資料や(業界動向などの)提案書の「共通的な部分」を作成したりする支援が可能です。

③は、一般的な知識で対応可能だが、個別のお客様の知識が必要な「営業効率化業務」で、拠点の「営業アシスタント」の業務拡大が可能です。

 

前述の通り、現在はオンライン商談が増え、比較的容易に営業アシスタントの商談参画が可能となりましたので、商談や案件状況の実情を共有しやすくなったと言えます。よく、地方の営業所などでは3年で移動してしまう営業担当者より、長く勤めている営業アシスタントの方がお客様に頼りにされているといった事象が起こります。

 

そして、整理するのは負担業務だけでなく、現状1ヶ月あたりの工数や、〝タラ・レバ〟でも良いので「こんな支援が受けられたら○○時間負担が減る」といった「解決イメージ」を同時に考えます。それにより、削減率の予測をするのですが、それ以外にも状況により「業務価値(業務単体として価値があり、その費用を顧客に請求、又は価格転嫁しても競争力が低下しないもの)」や「顧客の心理的障害(実際には他社へ業務移管が可能だが、お客様が難しいと思いこんでしまっているもの)」などもスコアリングし、解決策選択の際の参考にします。

 

これらの作業も、ハイパフォーマーを集めて2~3回のワークショップにより整理していきます。その際も「一部の人間だけで作った」とならないように、周囲の巻き込みなども考えなければなりません。

 

まとめ

今回は、より〝攻める〟ことを組織的に定義するための「標準営業プロセスマップ」と「付帯業務の切り分け」について解説してきました。こうした取り組みは、「より攻めなければならず」「互いのやっていることが見えづらく」「ツールや支援業務との連携が求められる」時代において、今後より一層求められる〝新しい営業活動(売り方)〟の第一歩となるものです。

 

本連載では全5回にわたり、テレワークの進展により「商談」「や商談マネジメント」がオンラインになることによる課題、そしてオンライン環境で、成果への進捗がより見えづらい中で、マネジャーが〝自前〟の戦略と進捗マネジメントを行うことの重要性、そしてそれらを支えるための〝攻め〟に対する基盤づくりについて解説してきました。混迷を極める状況の中で、本連載が皆さまの課題をチャンスにかえる(より強い営業組織を作る)一助になれば幸いです。

全5回コラム一覧

執筆者紹介

河村 亨

株式会社パーソル総合研究所 シニアコンサルタント

河村 亨

Toru Kawamura

1990年、機械商社を経て(株)富士ゼロックス総合教育研究所(現パーソル総合研究所)に入社。営業・営業マネジメントを経て、SFAの現場定着や戦略実行をテーマとした営業マネジメント力強化コンサルティングに従事。「自ら考え戦略的に動く営業集団をつくる 3つのフレームワーク」、「Sales Enablement アカウント型BtoB営業における営業力強化」などを執筆。セールスフォース社との「訪問しない時代の営業力強化の教科書」を共著。

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