ESサーベイのスコアは、どう分析する?

公開日 2017/11/01

執筆者: 総合営業本部 執行役員 元木 幹雄

はじめに

前回のコラム「ESサーベイでは何がわかる?」では、『ESサーベイを実施しても「何をすれば良いのか」が簡単にわかるわけではない』と言ってきた。
では、どうすれば良いのか。一言で言うと「考える」しかない。しかし、はじめて目にするESサーベイのスコアを目の前にして「考えろ」と言われても、何をどのように考えれば良いのかわからないはず。そこで今回は、考えるための3つのフレームワークを紹介したい。

3つのフレームワーク

フレームワークとは、考えるための手順を示し、「漏れなく、ダブりなく」考える手助けをするものである。知っていれば、早く結論にたどりつける。代表的なものとして「①空雨傘」「②2軸のマトリクス」「③6W2H」について紹介したい。

①空雨傘

1つ目のフレームワークは「空雨傘」である。「外出しようと思い、空を見上げると曇っている。天気予報を見たら降水確率50%」といったように「事実」を確認することがスタートだ。そして「もう少ししたら雨が降り始めるだろう」と事実に基づき「解釈」する。最後に「ならば傘を持って出かけよう」と「行動」に移す』という三段論法が空雨傘である。ESサーベイで応用して考えてみる。もちろん下記は一例である。発見できる事実はたくさんある。事実から解釈できることもたくさんある。解釈からとるべき行動もたくさんある。ここでは、実現可否は深く考えずに、とにかくアイデアをたくさん出すことをお薦めしたい。

ステップ1:事実を確認する。事実とは、回答から集計されたスコアだけではなく自由回答や、回答者に関する情報もある。例えば、「昨年の回答者数は1,000人だったが、今年は1,200人。男女比率は5:5。スコアは昨年5段階評価の平均が3.3で、今年は3.5。自由回答を読み込むとベテラン社員の不満が散見される」というように、目に付いた事実をとにかく書き出す。

ステップ2:次いで、重要だと思う事実から解釈を加える。例えば、上記の事実に加えて、「昨年から今年にかけて退職者が50人。新入社員が250名」という事実があった。モチベーションが落ちたベテランが退職し、希望に満ちている若手が入社したと推測する。平均スコアが上昇したのは、スコアが低いと思われる退職者の回答がなくなり、スコアが高いと思われる新入社員の回答が加わったからと解釈する。つまり、既存社員のスコアに変化はない。また、「男女比率については、ここでは影響はない」と解釈として、特記事項から外すことも解釈である。

ステップ3:最後に、この解釈から、例えば、「組織を活性化するためには、元気な新入社員が不可欠である。ベテラン社員の早期退職を募り、新入社員を増員しよう」というように、とるべき行動を洗い出す。

②2軸のマトリクス

2つ目のフレームワークは「2軸のマトリクス」である。上記でたくさんの取るるべき行動が案出されたとする。しかし、時間も予算も限られている中で、全てを行動に移すことは現実ではない。効果のあるものに絞り込み、実行に移すことが重要である。例えば、縦軸に「効果大⇔効果小」を置き、横軸に「コスト大⇔コスト小」を置いてみる。そうすると「コスト小で効果大」「コスト大で効果大」「コスト大で効果小」「コスト小で効果小」の4象限となる。この4象限に、洗い出した行動案をプロットしてみる。上記の「ベテラン社員の早期退職を募り、新入社員を増員」と言った行動は、効果大ではあるがコスト大でもある。要検討(要計画)と言える。他にも「成果を上げた人を報いる人事制度の構築」「従業員の成長・挑戦を支援する育成施策」「職場内のコミュニケーションの促進」「過重労働を軽減するための業務改善策」「ライフプランやプライベートを支える施策」「食生活のカウンセリングや昼休みの体操の実施などの健康支援」「各種表彰制度」「家族の職場参観や育児休暇制度など家庭サービス支援」等々といったように、ESを向上させるための行動は無限にある。中には、コストがほとんどかからないにも関わらず、効果大の施策もあるはずだ。それは即実行である。もちろん、コスト大にも関わらず効果小ならば、もちろん即とりやめ。コスト小でも効果小ならやめた方が良いと考える。対話会のような場を企画して、従業員に考えてもらうのも良い。概して、会社が決めて行動に移すと、従業員は押し付けられたように感じ、拒否反応を示すこともしばしば。従業員に考えてもらうことそのものが、ES向上策の一つになることもある。

③6W2H

3つ目のフレームワークは「6W2H」である。上記の絞り込んだ行動はいわば「WHAT(何をする)」である。従業員に「WHAT」を展開するならば、「WHY(なぜ)」と「HOW(どのように)」も整理する必要がある。しかし、多くの場合、経営者やES担当者が「空雨傘」を考え、従業員に「傘を持っていけ」という行動、つまり「WHAT」だけを指示するケースを良く見かける。「WHAT」だけを指示しても、「WHY」と「HOW」がわからないと、多くの従業員は耳すら貸さない。更に付け加えると、「WHEN(いつ)」「WHERR(どこで)」「WHO(誰が)」「WHOM(誰に対して)」と、「HOW MUCH(どの程度の予算がかかる)」のかがわからないと、行動には移されない。

まとめ

もちろん、上記のフレームワークを活用しても、「うまくアイデアが浮かばない」というケースは往々にしてある。その場合は、他者の意見に耳を傾け、事例を探り、真似る事からスタートしても良い。行動なくしてES向上はない。しかし、他者の意見や他社の事例をそのまま採り入れるのではなく、自ら考え、オリジナルのアイデアを考えることをあきらめないで欲しい。

 

執筆者紹介

元木 幹雄

総合営業本部 執行役員

元木 幹雄

Mikio Motoki

人事教育コンサルティング会社及び遠隔通信制(オンライン)ビジネススクールにて営業や企画スタッフを経験後、2001年に富士ゼロックス総合教育研究所(現 パーソル総合研究所)に入社。人事制度及び人材育成制度の導入・定着に向けたコンサルティング、人事情報システムやタレントマネジメントシステムの導入支援、リサーチ&アセスメントの企画・実行支援に従事し、現在に至る。産業能率大学大学院経営情報学研究科(MBA)修了。

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