組織を蝕むリーダー再考 ~サイレント・キラーを見逃していないか~

公開日 2018/09/20

開催日:2018年8月29日(水)

【第一部】不在のリーダーシップ Absentee Leadership ~見落とされていたタイプ~

講演者プロフィール

米ホーガン アセスメント システムズ社 パートナー コンサルティング部門バイスプレジデント
Scott Gregory(スコット・グレゴリー)

ホーガン社設立者であるBob Hogan&Joyce Hoganより博士課程から直接薫陶を受け、グローバルコンサルティング会社でのコンサルティング活動、 12年にわたるPentair 社でのタレントマネジメント、ODの経営役員を経て、現在ホーガン社共同経営者。コンサルティング部門の責任者として役員層セレクションや開発、及び後継者育成を専門とし、北米、南米、豪、アジア、欧州で活動。Fortune100の半数以上の企業の組織コンサルティングに従事。6000人以上の役員層のコーチングに携わる。Journal of Business and Psychologyでの執筆、 Bob Hoganとの共著 The Handbook of Personality Psychology。講演多数

リーダー人材の選抜・育成において、望ましいリーダーとともに、争点となる望ましくないリーダー、問題リーダーを指摘することはたやすいですが、問題行動を起こすわけでも、怒鳴り散らすわけでもない「不在のリーダー」は放置しがちで、ゆっくりと組織を蝕んでいきます。これまで科学的には語られてこなかったAbsentee Leadership「不在のリーダーシップ」とその有害性について、世界有数の企業の組織開発、役員層のセレクション、開発、後継者育成に広く携わってきたホーガン社CEOが、考察します。

ホーガン アセスメント システムズ社の特長

当社は主にパーソナリティテストに特化し、採用、人材発掘、リーダーシップ開発といった問題に対して質の高いソリューションを提供しています。従業員の1/4が博士号を持つリサーチャーであり、科学的な根拠に基づいた研究を行っています。欧米各国におけるあらゆる職種のデータを保管し、特定の企業に向けた個別のソリューションも提供しています。

当社がこれまで提供してきた主要な調査結果を紹介します。まず私たちは1980年代には、パーソナリティから職務上のパフォーマンスが予測できることを証明しました。1990年代には、特にリーダーのパーソナリティが財務業績に直結することを明らかにしました。さらに2000年代に入り、パーソナリティからリーダーシップの発揮の仕方を予測できることが分かりました。しかし一方で、リーダーの65~75%がリーダーシップの発揮に失敗していることも明らかになりました(2005年)。そして2017年の調査では、「リーダーとして浮上すること」と「リーダーの有効性」とを区別する必要があることを明らかにしました。

リーダーシップをどう定義するか

そもそもリーダーシップとは何か。私たちは人類の進化の観点からそれを考えます。すなわち、人は常に集団生活を行う生き物であること、そして集団と集団の間には常に闘いがあり、有能な集団が生き残ってきたということです。人は本質的に地位、帰属、意味を必要とします。このうち、地位と帰属は対立関係にあります。集団内で誰が一番高い地位を得るかという争いがある一方、生き残るために集団として一つにまとまらなければなりません。そこでリーダーに必要なのは、この二つのバランスを取ることです。リーダーの仕事は集団を助け、方向性や達成すべきゴールを明確にする、そのために地位を持つことが必要なのです。

リーダーシップとは集団に成功をもたらす個人の能力であるといえます。したがって、単に肩書きがあるからではなく、集団にとって有効性を発揮することがリーダーの成功であると私たちは見なしています。

「浮上するリーダー」と「効果を発揮するリーダー」

ネブラスカ大学経営学教授のフレッド・ルーサンズは、475名のリーダーを分析した結果、彼らを2つのグループに分類できると結論づけています。1つは組織の中で非常に目立ち、人と関係をつくることに長け、昇進も早く、政治的能力の高いグループです。ルーサンズは彼らを「浮上するリーダー」と呼びました。それに対し、もう1つのグループはさほど目立たず、幅広いネットワークを持っていないが、チームと共に着実に働く人たちです。後者のチームは「浮上するリーダー」を長とするチームよりもパフォーマンスが良いことがわかりました。ルーサンズは、後者を「効果を発揮するリーダー」と呼び、一見リーダーらしくは見えないが、「リーダーシップの有効性」を発揮できるリーダーであるとしています。2つのグループには重複部分がありますが、その両方を持つリーダーの割合は10%です。つまり、人との関係を基準にリーダーの人選を行うと、「効果を発揮するリーダー」を見落としてしまう可能性が高いということになります。

ルーサンズによると、「浮上する」こととは組織の上部から認識されるという、個人の成功を意味します。一方、「有効性」とは組織全体の成功を意味するものです。私たちは「浮上する」ことよりも有効性が重要であると考えています。

パーソナリティ評価において、「効果を発揮するリーダー」は国や地域、組織文化を問わず世界的に共通しています。すなわち、謙虚であること、モチベーションが高いこと、諦めないことが「リーダーシップの有効性」を発揮するのです。しかし、「浮上するリーダー」は、国によってその浮上の仕方が異なります。たとえば、日本のリーダーは他の国々のリーダーと比べて自己主張や野心が薄いという傾向が見られます。しかしこれは、それぞれの国の有能なリーダーに本質的な違いがあるということを意味しません。このことからも、「浮上するリーダー」ではなく「効果を発揮するリーダー」を選ぶことに重点を置いた方が優れたリーダーを選択できると考えます。

破壊的なリーダー

ここまで「リーダーシップの有効性」について話してきましたが、ここからは効果的ではない、むしろ破壊的影響をもたらすリーダーシップについて話します。

リーダーシップのタイプ

上図は、組織や部下に対して好意的か対抗的であるかを指標にリーダーシップのタイプを分類したものです。チームメンバーに助言を与え問題解決を助けるなど部下に好意的であり、組織のニーズも満たすようなタイプは「建設的なリーダー」です。しかし、部下に支援的であっても、組織のゴールにフォーカスしていなければ組織に対して不実なリーダーとなります。逆に組織の目的を満たせるのなら部下が犠牲になっても構わないという「専制的なリーダー」もいます。そして組織のニーズも組織のゴールも無視する人は、「軌道逸脱リーダー」といえるでしょう。つまり、「建設的なリーダー」以外はすべて「破壊的リーダー」となります。

しかし、実はこの3つのタイプ以外にも「破壊的なリーダー」になるケースがあります。それは図の中央に位置するタイプ、すなわちリーダーの地位にありながら、全然リーダーシップを発揮していない、あるいは発揮しようという意思すら欠けているという人たちです。私たちはこれを「不在のリーダーシップ」と呼んでいます。

不在のリーダーシップ

では、「不在のリーダーシップ」とは具体的にどのようなものか。1000人を対象に自分が仕事で効果を発揮する上でそれを妨げる上司の行為について調査したところ、「自分の仕事を認めてくれない」(63%)、「方向性を示さない」(57%)、「面談してくれない」(52%)、「話しかけてくれない」(51%)、「成果を認めてくれない」(47%)、「批判さえもしない」(39%)、「名前も覚えてくれない」(36%)、「仕事以外の自分の人生に関して質問をしない」(23%)というデータが得られました。これらのうち、「自分の仕事を認めてくれない」以外はすべて「行為の不在」を示しています。

「不在のリーダーシップ」が部下に与えるマイナスの影響としては、役割の曖昧さ、同僚との対立、いじめ、仕事への満足度の低下、心身の消耗、そこから退職の意向が高まり離職率も高まるということがデータで裏付けられています。

さらに、その影響がどれくらい続くのかということについても調査を行いました。まず「建設的なリーダー」においては、部下の仕事の満足度に対して即時的にプラスの影響を与えます。しかし「専制的なリーダー」の場合、部下の満足度にすぐにマイナスの影響が及び、6ヶ月後もそれが継続することがわかりました。では「不在のリーダーシップ」の場合はどうか。即時的にはマイナスの影響はないものの、6ヶ月後にはそれが現れ、2年経ってもその影響が続くということがわかりました。つまり、時間の経過とともにマイナスの影響が蓄積されていくのが「不在のリーダーシップ」の特徴です。

何を指標とすれば良いか

私たちは「不在のリーダーシップ」の研究から、どのような人が不在のリーダーになりやすいかを5つの指標としてまとめました。1つ目はリーダーシップに対するモチベーションの欠如です。これは「不在のリーダーシップ」における最も顕著な傾向です。2つ目はチームとの関わりを持ちたがらない人、つまりチームへのエンゲージメントの欠如です。3つ目は生活のために働くというようなキャリアへの全般的なエンゲージメントの欠如、4つ目が粘り強さの欠如、そして5つ目が人々にモチベーションを与える努力の欠如です。

しかしながら、不在のリーダーの発見は実際には困難です。なぜなら、彼らは隠れていて見えないからです。積極的にトラブルを起こすわけではないし、部下への破壊的な行動も取っていない。チームはリーダー不在で活動することに慣れ、有能なメンバーのおかげでしばらくは良い業績を維持することさえあります。しかし、時間の経過に伴い、組織内に不在のリーダーは確実に増えていくのです。

私は彼らを組織の動脈硬化を起こす「サイレント・キラー」と呼んでいます。気づかないうちにどんどん蓄積し、やがてそれは組織にとって極めて破壊的な存在になってしまうからです。

【第二部】ホーガンアセスメントは日本の人事・人材開発にどのように受け入れられているか

当社がホーガン社と提携し、パーソナリティ・アセスメントを活用したリーダー人材サービスを提供して、今年で5年目になります。第2部では、日本の人事・人材開発の現場で、どのようにホーガンアセスメントが活用されているのか、当社がご支援した事例を中心に、ご紹介いたします。

ホーガンアセスメントとは

当社が提供しているホーガンアセスメントは、2014年の提供開始から2018年現在まで累積で7000人ほどが受検し、精密機器、電機、自動車、医薬、人材派遣、金融保険など様々な業界で活用されています。

図1.当社経由の受検者数

階層別の内訳はミドルマネジャーが一番多く、次にリーダー・プレマネジャー、シニアマネジャー、中堅・若手の順となっています。
活用目的別では最も多いのが能力開発、次に審査・選抜、自己変革・組織活性化、マネジメント育成、適材発掘・育成という内訳です。

図2.受検者の階層別内訳
図3.用途・目的

ホーガンアセスメントはパーソナリティを測定するテストです。国内で提供しているサービスは複数あり、ピラミッド型構造となっています。最もベーシックな「(1)インサイトレポート」では、普段の職場での行動を見る「ブライトサイト(HPI)」、ストレス下で現れるリスクを予測する「ダークサイト(HDS)」、内側の価値観や思考を見る「インサイド(MVPI)」の3つの観点から自己理解を深めます(図4参照 )。その上に、多面診断の「(2)ホーガン360°」、リーダーシップ6領域の行動特性を測る「(3)リーダーフォーカスレポート」、9つのコンピテンシーでパフォーマンスの高い人材を予測する「(4)ハイポテンシャルタレントレポート」といった、各階層に対応するレポートを提供しています。今回はこの(1)~(4)のツールを活用して、当社がどのような支援を行ってきたかという事例を3つ紹介します。

図4.ホーガンアセスメントのサービス

事例1 自己変革・組織活性化

1つ目は製薬企業のシニアマネジメントを対象とした自己変革・組織活性化の事例です。お客様の要望は、中期経営計画の策定をきっかけに部門長の行動変革を起こしたいというものでした。背景にあったのは、彼らが上位の指示に忠実で正確性が高いことへの懸念です。というのも、その中期経営計画ではグローバル化やイノベーション推進といったそれまでと異なるチャレンジを求めていたため、従来のスタイルで作られたようなアクションプランでは困るというわけです。お客様が求めていたのは形式的ではない心からのコミットでした。

そこで私たちは「(1)インサイトレポート」と「(2)ホーガン360°」の2つのツールを使って、部門長のコミットメントを引き出そうと考えました。氷山モデルで説明すると、水面の上に出ている部門長の行動だけでなく、水面下に隠れている、なぜその行動を取るのかという部分にも着目してみようということです。特にインサイトレポートによるパーソナリティ評価は大きなインパクトをもたらしました。なぜならば、多面評価から自分の啓発点を知り得たとしても、そこには自分の行動を正当化する何らかのロジックが働いているかもしれないからです。なぜその行動を取るのか、あるいは取らないのかをより深く自己確認していくことで、深い納得性や気づきを得ることにつながるわけです。

施策を展開するプロセスについては、最初にアクションプランを作り、これを多面評価と自己理解の深掘りによって進化させていくという流れにしました。ポイントはあるべきマネジャー像を意識したアクションプラン、アセスメント&フィードバックによる進化、課長層も巻き込んで部門課題に取り組んだことです。

施策実施後のアンケートによると、アクションプランが変化した人の割合は8割にのぼり、新しい視点やコミットの強さ、具体性という点で変化が見られました。特に目立ったのが視点の変化であり、「それまで限られた側面でしか課題を捉えていなかったが視野が広がった」といった声が聞かれました。もちろんコミットの変化もあり、「これまでの多面評価と異なって非常に納得感があった」という反応もありました。

事例2 マネジメント育成

2つ目は精密機器メーカーのミドルマネジメントに対する施策です。お客様は数年間のうちに事業構造を転換しなければならないという企業でした。それを促進する施策の1つとしてマネジメント改革を掲げていましたが、ミドルマネジャーの変革指向や戦略実行力が弱いことが課題でした。多面評価で効果検証を行うと、ミドルマネジャーのスコアが毎年落ちていることがわかり、人事施策として新人マネジャーの選抜・育成方法を変えるなど若返りを図っていました。ところがそれによって、新任マネジャーのスコアが既任マネジャーのスコアを上回るようになり、何か手を打たなければならないということでマネジャー育成の施策を当社に依頼されたのです。

私たちは約半年間の教育的プログラムで行動変容を促していくことを提案し、視座/視野の転換、職場実践、上位層の巻き込みを意識した施策の設計を行いました。そして最初の課題形成ワークショップで「(3)リーダーフォーカスレポート」を使用しました。そのあとは現場検証と実践、進捗共有のワークショップ、再度の職場実践と能力開発、最後に役員の前での成果発表というプロセスになります。

なぜ、冒頭セッションでリーダーフォーカスレポートを使用したかというと、自分自身の偽らざる実情を見てもらうためです。実際、グローバル標準で自分の特徴がスコア化されることは、新鮮な驚きを持って受け止められました。自分が良いと思ってそれまで続けてきたマネジメントスタイルを相対化することで、肯定的な面と否定的な面の両方を認識できたことは非常に有益だったと思います。

この施策を行った結果、多面評価の効果測定において全項目で施策前を上回り、顧客・市場指向、部下の育成、変革指向で大きなスコアの改善が見られました。

事例3 適材発掘・育成

3つ目はメーカー系商社の部長を対象に行ったプログラムです。この企業のシニアマネジメントは50代後半から60代と年齢層が高く、世代交代の必要に迫られていました。また、組織の停滞感の打破や次世代の経営者の発掘をしなければならないことから、比較的若手の部長12名を選抜して教育的施策を実行しました。

施策の全体像は全部で4回のワークショップを実施し、最後のワークショップでリーダーとしてのコミットメントを醸成していくために「(4)ハイポテンシャルタレントレポート」を使いました。それをフィードバックすることで能力開発課題を明確化していきます。なぜ最後に使ったかというと、それまで事業部門に最適なマネジメントをしていた人たちに、いきなり全社的な視座や視野を持ってもらうというのはハードルが高いと考えたからです。まずは自己認識、経営に必要な知識のインプット、ディスカッションを中心とした経営課題の理解といった3段階の視座を上げる取り組みを行い、その上で近い将来経営を担う人材としてコミットしてほしいというメッセージと共に能力開発を動機付けていくという流れにしました。

ハイポテンシャルタレントレポートは、3つのディメンジョンと9つのコンピテシーで構成され、その中で具体的な能力開発のヒントに触れています。それを元にワークショップの中で強みや啓発点について確認していくことを実施しました。

まとめ

最後にまとめると3点あります。1つ目は経験豊富なシニアマネジメント層に非常に手応えがあったことです。やはりホーガンアセスメントがパーソナリティの複雑さを表現できるツールであることから、高い納得感を得られ、部長クラスであっても行動変容を促進できたのだと思います。2つ目はグループフィードバックのアプローチによって、受講者の内省やチームビルディングを促進し、研修そのものの底上げにつながることです。3つ目はリーダーフォーカスレポートやハイポテンシャルタレントレポートの活用によって、短い時間でも強みや課題を把握できること、そして息の長い能力開発に向けて動機付けをしていく効果があると思います。

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