今すぐ役立つ!先延ばしをしないための4つのポイント

公開日 2015/08/17

執筆者:ラーニング事業本部 加藤 利恵

■はじめに

「提出が締め切りに間に合わなかった」、「期限に間に合わせるために徹夜をするハメになった」というように、やらなければならないことを先延ばしてしまって失敗したという経験はありませんか。あるいは、周りの人に対して「どうして早く取りかからないのだろう?」、「先にやっておけば良いのに…」と感じる時がありませんか。

私自身も、やるべきことを先延ばしてしまって後悔をすることがあります。報告資料の提出期限に間に合わせるために他の予定をキャンセルしなければならなくなったり、自宅の庭の手入れを先延ばしたために害虫に木の実がたべられてしまっていたり、今年の夏こそ水着を着るためにダイエットをしようと思っていたのに、ダイエットができないまま夏が終わろうとしています。

多かれ少なかれ皆さんにもこのようなことがあると思います。ある調査によると95%の人が先延ばしをすると認めているそうです。また、先延ばしが自分の性格的特徴だと考える人が急増しており、全世界の人の20パーセントにも達すると報告されています。そして企業における先延ばしによる損失額は、従業員ひとりにつき年間1万ドルにのぼるとも試算されています(注1)。 このような損失を減らし、私たちが先延ばしによる後悔をしない為にはどのようにすればよいのでしょうか。ここでは、すぐに役立つ4つのポイントをお伝えします。

■誘惑を遠ざける

試験当日の朝の光景です。

Aさん:「全く勉強ができていないんだ。昨夜、ついついゲームを始めちゃって、気付いたら明け方になっちゃってたんだよ」
Bさん:「わかるわかる。僕も昨夜テレビでやっていた映画を最後までみちゃって、勉強がほとんどできなかったんだ」
Cさん:「私なんて、夜中に起きて勉強しようと思って目覚ましをセットしておいたのに、朝まで寝ちゃってた(泣)」

やらなければいけないことがあるのに、全く別のことをしてしまい(あるいは何もせず)時間が足りなくなってしまったようです。 このようについ別のことをしてしまう行動は、人間がもともと持っている「衝動性(いまの瞬間だけを考えて行動する性質)」に起因しているといわれています。この衝動性を刺激する誘惑には、食や睡眠、安全などの原始的なレベルのものからTVやコンピュータゲーム、フェイスブック(SNS)のように現代的なものまで様々なものがあります。

では、これらの誘惑に打ち勝つためにはどのようにしたらよいのでしょうか。それには、まず自分が最も屈しやすい誘惑を特定し、そしてその誘惑を遠ざけることです。 TVやコンピュータゲームが誘惑であれば、試験前にはゲーム機やTVのリモコンを親に預けることで物理的に誘惑を遠ざけることができます。睡眠という誘惑に負けてしまう人は、人目があって眠れない環境をつくる、たとえば友人と一緒に勉強をするなどもよい案でしょう。 このように誘惑を遠ざけると衝動性に屈することなく目的達成が可能になります。

■目標を細分化する

何かの誘惑に屈してしまったわけではないのに、なかなかとりかかることができないということもあります。そして、無情にも時間が過ぎてしまい、期限に差し迫って焦ることになるのです。私にも経験がありますが、長期間にわたる大規模な仕事の時にこのパターンに陥りやすくなるのです。 なぜ、このような状態になるのでしょうか。私たちには、未来の目標、あるいは抽象的すぎる目標は、なかなか行動に移せないという傾向があります。反対に、目の前の具体的な行動ほど、すぐに行動を起こしやすいのです。心理学者のピアーズ・スティールは、こうした特性をもとに次のような方策を勧めています(注2)。

① 目標の最終的な内容(ゴール)を具体的にする。
② その目標(ゴール)に対してスケジュールを立てる。
③ 長期の目標となる場合、いくつかのステップに細分化する。
④ 最初に短期的なミニゴールを設定し、そのゴールを目指して取り掛かる。

このなかで特に鍵となるのは③の目標の細分化です。細分化とは、やるべきことを分解して書きだしたり、一週間ごとの具体的な数値目標を立てたりすることです。このように細分化をすることによって難課題に対してもなすべきことが明確になり、行動に移しやすくなるのです。 また、④も効果的です。最初の短期的な目標を達成できると自己効力感(注3)が高まって次への「はずみ」ができるためです。その結果、次の目標へ向けた行動へつながっていくのです 。

■宣言する

世の中には、目標を先延ばしすることなく計画的に達成できる人もいます。そのような人には、ある共通点があります。

サッカーの本田圭介選手も目標を達成したひとのひとりです。本田選手は、2013年にヨーロッパのセリエA(ACミラン)に移籍しました。ヨーロッパリーグへの移籍はとてもすばらしいことなのですが、その際に彼が15年前の夢を実現したということも話題になりました。本田選手は小学校の卒業文集で「将来の夢」として以下のように書いていました。“Wカップで有名になって、ぼくは外国から呼ばれてヨーロッパのセリエAに入団します。そしてレギュラーになって10番で活躍します。”そして、15年後にその夢を実現したのです。

また、他の著名人では、いまや世界的アーティストとなったマドンナが、タイムズスクエアで35ドルの全財産を手に、“神様よりも有名になる”と誓ったという話もあります。

もちろん、宣言しただけで実現するはずはありません。二人とも血のにじむような努力をしました。その努力の源になったのが、宣言なのです。なしとげたいこと(目標)を宣言する行為は、プレコミットメントという行為です。プレコミットメントとは、将来強い欲求に襲われることを事前に見越して自らを拘束する行為(事前の自己拘束)を指しています。プレコミットメントには、宣言する方法以外にも、ペナルティーを科す、物理的に不可能な状態をつくる等の方法があります。

プレコミットメントは、何かを確実になしとげたいと思った時に有効な手段となります。例えば、あなたが今取り組むべき仕事をチームメンバーに宣言したとします。すると、実行するというあなたの意思にメンバーからの有言無言のプレッシャーがプラスされて、より実行力が高まるのです。

■トンネリングの恐怖を理解する

なかには「あえて、先延ばしをする」という人もいます。理由は、「自分を追い込んだ方が良いもの(仕事)ができるから」というのです。確かに、締め切りが迫る中でもやり切った時にはとてつもない達成感が得られますし、極限状態で集中力が高まっていると、すごいアイデアを思いついたり、良い結果に繋がることがあります。

時間に追われるとなぜ良い結果につながるのでしょうか。行動経済学のある著書(注4)に、消防士を例にした話がありました。通報を受けて急いでいる消防士には、一刻の余裕もありません。迅速に消防車に乗って火事現場を目指すとともに燃えている建物の構造と配置を調べ、侵入と脱出の作戦を考えるのです。これらすべてを現場に到着するまでに行うため、消防士の集中力は極限まで高まっているため、遠隔地や困難な消火活動にも対応することができるのです。彼らは、集中による力の発揮効果である集中ボーナスを得ているのです。この集中ボーナスによって常態では実行できないことが、可能になっているのです。あえて先延ばしをする人も締め切り間近にこの集中ボーナスを得ているのです。

しかし、一方でこの集中状態が、消防士の死亡原因につながっているとも同書にはかかれています。消防士の死亡事故原因で多いのは交通事故であり、その多くがシートベルトの着用で防げるものだというのです。集中ボーナス時には目先のやるべきことに集中しすぎて、それ以外のことがすべて意識の外に押し出されてしまいます。それゆえ、シートベルトを締め忘れてしまうのです。 この状態のことをトンネリングといいます。トンネリングとは、トンネルの内側のものは鮮明に見えるが、周辺のものは何も見えなくなるという視野狭窄の状態のことです。消防士は、トンネリング状態となってしまって命を落としているのです。

私たちも何かひとつのことに集中し過ぎてしまうと、周囲の呼びかける声に気が付かなかったり、打ち合わせの時間や提出物の締め切りを忘れてしまう危険があります。そのために大切なお客様や仕事仲間の信頼を失ってしまっては、取り返しがつきません。そうならないためにも、集中ボーナスに期待せずに、計画的に物事に対応していくことが重要なのです。

■おわりに

私たちの生活では、やるべきことが毎日のように発生します。それは簡単なこともあれば、手を付けるのに躊躇するほど困難なことなど様々です。誘惑の多い現代社会の中でやるべきことに優先順位をつけながら計画的に行動するのは大変難しいことです。 しかし、先延ばしをすることをやめて計画的に行動すると時間的な余裕ができるだけではなく精神的にもあなたやあなたの周りへの良い効果が発生します。そして、常に意識して習慣化ができればさらに良い結果へとつながるのです。

私は、目標を細分化したことで大きな案件に計画的に取り組むことができ、良い結果を得ることができました。しかし、このコラム執筆では誘惑を遠ざけることに失敗してしまい、計画的に取り組むことができませんでした。常に意識して計画的に行動することの難しさを改めて実感しています。千里の道も最初の一歩からはじまります。先延ばし癖対策のきっかけとして、今回取り上げた4つのポイントを意識してみてはいかがでしょうか。成功したらきっと皆さんにも良い効果を体感していただけると思います。

 
<参考文献>

注1:Roy F. Baumeister and John Tierney (2011) Willpower: Rediscovering the Greatest Human Strength, The Penguin Press. [渡会圭子訳(2013)『WILLPOWER 意志力の科学』合同出版]

注2:Piers Steel (2011)The Procrastination Equation: How to Stop Putting Things Off and Start Getting Stuff Done, Pearson Life. [池村千秋訳(2012)『ヒトはなぜ先延ばしをしてしまうのか』阪急コミュニケーションズ]

注3:自己効力感とは、自分はうまくやることができるだろうという自信のことであり、心理学者のA. バンデューラによって提唱された。

注4:Sendhil Mullainathan and Eldar Shafir(2013) Scarcity: Why Having Too Little Means So Much,Brockman. [大田直子訳(2015)『いつも「時間がない」あなたに 欠乏の行動経済学』早川書房]

(2015.8.17)

 

執筆者紹介

加藤 利恵

ラーニング事業本部

加藤 利恵

Rie Kato

資格の総合スクールで司法試験やFP講座の企画・運営に従事したのち、2001年より富士ゼロックス総合教育研究所(現 パーソル総合研究所)の経営企画部で経理、経営管理、内部監査、内部統制などの業務を経験。現在は、事業推進部でパートナー企業との連携や業務効率化、IT/オンライン化の促進など幅広い業務に取り組んでいる。

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