組織を壊す「トキシックリーダー(Toxic Leader)」にならないために

公開日 2014/08/20

前回は、リーダーシップの源泉から自分のリーダーシップスタイルを探る自己理解テスト、HOGAN ASSESSMENT(ホーガン・アセスメント)についてご紹介しました。

2回目の今回はホーガンアセスメントシステムズ社によるリーダーシップについての講演を抜粋して、その概略をご紹介します。前回に続き、ご自身のリーダーシップスタイルを考える際の一助になれば幸いです。

こんなリーダーは嫌だ! トキシックリーダーシップにご注意

「Toxic Leadership ~こんなリーダーは嫌だ~」という衝撃的なタイトルの講演が、先月弊社主催のイベントで行われました。HOGAN ASSESSMENTのローンチ記念イベント「ビジネスリーダーの育成と発掘を考える ~リーダーシップの源泉からのアプローチ~」の1つのセッションで、スピーカーは米ホーガンアセスメントシステムズ社 グローバル アライアンス コンサルタントのマイケル・サンガ―氏です。

タイトルの「Toxic Leadership」は、直訳すると「毒のあるリーダーシップ」ですが、転じて「組織を破壊するリーダーシップ」の意味を持ちます。こうしたネガティブな題材の講演は珍しいと思いましたが、そういえばこれまで自分が参加したリーダーシップセミナーで盛り上がったのは、「“良い”リーダーと“嫌な”リーダーの特徴をあげてください」というグループワークで 、“嫌な”リーダーの特徴を挙げたときだったことを思い出しました。

その時は、「口だけで、行動がともなわない」、「上層しかみていない」、「器が小さい」、「人によって態度が変わる」、「感情の起伏が激しい」、「仕事の話しかしない」、「フォローがない」など、次から次と“嫌な”リーダー像が浮かび上がってきては共感したり、そんなリーダーが実際にいるのだと驚嘆しながらグループワークした経験があります。それだけ、「こんなリーダーにはなりたくない」という反面教師がどこの組織にもいるということかもしれません。

講演では“嫌な”リーダーにならないために、自分のリーダーシップスタイルを振り返るうえでの示唆がありました。その講演内容を抜粋してご紹介します。

自分と他者への関心から見たリーダーシップスタイル

本講演では、リーダーシップのスタイルを2つの軸で分けて考えます。1つは「自分自身への関心」、もう1つは「他者への関心」です。

自分よりも他者に関心があるか、他者より自分に関心があるか。それとも他者にも自分にも関心があるか、もしくは双方ともに関心がないか。自分自身の周囲への影響の及ぼし方、意志決定の仕方、フィードバックの仕方で、それぞれ以下の4つのリーダーシップスタイルを説明しています。


【1】協力的
共通のゴールに向かって、お互いの利益を考慮した意思決定をしながらチームを束ねていくパートナーシップ型で、良いフィードバックも、時に厳しいフィードバックもバランスをとってしながら、目標達成を主導していくスタイル(自分への関心:高、他者への関心:高)


【2】人あたりが良い
相手が気に入るフィードバックを中心にしながら、メンバーとの対立や難しい決定を避け、過度に寛容的なスタイル(自分への関心:低、他者への関心:高)


【3】存在感がない
自分にも他人にも無関心で、フィードバックのやりとりを避け、ほとんど周囲に影響を及ぼさない、自由放任主義(自分への関心:低、他者への関心:低)


【4】自己中心的
懲罰や制裁によってフィードバックを与え、利己的な意思決定をし圧力をかけて周囲への影響を及ぼす権威主義スタイル(自分への関心:高、他者への関心:低)

4つ目の、自分への関心が高く、他者への関心が低い「自己中心的」スタイルは、組織を破壊するリーダーシップ、つまりトキシックリーダーシップにつながると見られています。

トキシックリーダーシップ 5つの特性

講演では、トキシックリーダーシップに見られる5つの特性について以下のように紹介しています。1つ目は、うぬぼれが強く、自信過剰で他者の意見を無視する「自己中心的」特性、2つ目は、野心的で、権力や影響力の強いポジションを求め、目標に対して集中力、エネルギー、スタミナを発揮する「権力志向」。3つ目は、社交的で愛想がよく、受けの良いイデオロギーを支持する「カリスマ性」。4つ目は、成長期に重大な問題やトラウマになる出来事を経験していたり、苦労話や起こりそうにもない話をする「ネガティブ志向」。5つ目は、共通の脅威に対し支持を集めたり、外部からの脅威という認識を新たに作り上げたり、大げさにあおったりして権力を正当化する「共通の敵づくり」です。

トキシックリーダーシップが生まれる背景

マイケル・サンガ―氏はまた、組織を破壊へと導くのはリーダーだけではないと述べます。組織を破壊するリーダーに順応してしまうメンバーがいたり、あるいはそのリーダーを積極的に支援する支持者がいれば、トキシックリーダーシップは強化されます。また組織が不安定で、競合の脅威に常にさらされていれば、強力なリーダーシップが求められますが、リーダーによる権力の乱用をチェックする仕組みがない場合は、その強力なリーダーシップは、トキシックリーダーシップに変貌し暴走するリスクがあります。さらに、個人の成長や成功にばかり目がいって、組織に無関心な風土でも、トキシックリーダーシップは生まれると解説します。組織を破壊するリーダーと、その影響を受けやすいメンバー、そしてその破壊するリーダーシップを助長する環境の3つは、あわせて「Toxic Triangle」(毒のある三角形)と称されます。講演ではその三角形の毒性について、HOGAN ASSESSMENTのパーソナリティと価値観のスケールを使いながら考察しており、さらに、組織に潜むToxic Triangleの毒性の所在を見極め、リーダー・メンバーともに戦略的に自己認識を高めるコーチングが重要になってくると強調して、講演は締めくくられました。

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トキシックリーダーにならないために

共通の目標に向かって集団を動かすリーダーシップは、必ずしもポジティブに機能するわけではなく、状況によっては組織を破壊に導くことがあることを、本講演より改めて認識させられます。特に、組織を破壊するトキシックリーダーは、リーダー自身のパーソナリティや価値観の他に、リーダーを支持するメンバーやそのリーダーを取り巻く組織風土があって、誕生し、助長されることが分かります。

皆さんの周りには、組織を破壊するトキシックリーダーはいませんか?
皆さん自身はいかがでしょう? 以下に簡単なチェックポイントを紹介します。


【リーダーとして】
・他者の意見を聞かなかったり、感情的になりやすかったり、高圧的だったり、自信過剰にはなっていないか


【メンバーとして】
・上からの指示を待ったり、衝突や混乱を避けて安定を重視したり、決められた通りに従おうとしたりする傾向にはないか

本人がトキシックリーダーにならなくとも、組織運営に無関心になったり、納得のいかない合意形成に従っているとしたら、それは、トキシックリーダーを生む状況を自分自身が作っていることになりかねません。


【組織を見渡して】
・声の大きい人の意見で意思決定がされたりしていないか
・「おかしい」と思ったことを率直におかしいと自由に言えるオープンな環境にあるか
・組織全体が同質化してしまったり、異なった価値観との摩擦を避けてしまったりしてはいないか
・常に外部の視点をとりこみ客観的な目で判断されるなどの内部チェック機能が働く仕組みがあるか

トップ以下、同じ組織体制がしばらく続いているときは、更に注意が必要です。数年かけて築き上げてきた関係性の中で、強固な結束力がプラスに働いて成功しているときは、なおさら自分たちのToxic Triangleの出現には気づかないものです。

一度、ご自身とメンバーのリーダーシップ、そして自分を取り巻く組織環境について、“毒性”が潜んでいないか、振り返ってみることをお薦めします。

※掲載している情報は、記事執筆時点(2014年8月20日)のものです。

※本コラム原稿はNTTコム オンライン・マーケティング・ソリューション株式会社が運営する「Bizコンパス」に掲載されました。

著者プロフィール

山本 実

HOGAN ASSESSMENT Master Certified Feedback Coach /認定シニアアクションラーニングコーチ

IT系シンクタンクでの業務改革コンサルティングを経て、2001年より、パーソルラーニングにて、人材開発のコンサルティングを中心に、人材育成やキャリア開発の仕組み作り、その運用・定着支援に従事。また、戦略の実行力を高める組織開発プログラムや、グローバルパートナー(米国)のリーダーシッププログラムを開発。現在、ファシリテータをしながら変革リーダーの育成ソリューションの展開を推進している。

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