新たなイノベーションを生み出す!「ジョブ理論」活用法

新たなイノベーションを生み出す!「ジョブ理論」活用法

2020年2月7日

早嶋 聡史
株式会社ビズ・ナビ&カンパニー  代表取締役社長 / 一般社団法人日本M&Aアドバイザー協会 理事

早嶋 聡史

イノベーションの大家である、クレイトン・クリステンセンが提唱するジョブ理論とはどのような考え方でしょうか? ジョブ理論とは、顧客が商品(製品・サービス)を購入する理由を明らかにして、それにまつわる一連の解決策を提供する考え方です。ジョブ理論では、ジョブの定義を、「特定の状況で顧客が成し遂げたい進歩」としています。 今回のコラムでは、2回にわたってジョブ理論の基本的な考え方を整理し、3回目に実際の使用イメージを共有させて頂きます。

  • 第1回 ジョブ理論の基本的な考え方(前編)
  • 第2回 ジョブ理論の基本的な考え方(後編)
  • 第3回 ジョブ理論のフレームワークと考え方

第1回 ジョブ理論の基本的な考え方(前編)

  • 【目次】
  • クレイトン・クリステンセンとジョブ理論
  • ドラッカーとレビットの主張
  • ミルクシェイクのジレンマ

【クレイトン・クリステンセンとジョブ理論】

ジョブ理論の著者、クレイトン・クリステンセン(以下、クリステンセン)はハーバードビジネススクール(HBS)の教授です。著書『イノベーションのジレンマ―技術革新が巨大企業を滅ぼすとき』(翔泳社2001年)によって破壊的イノベーションの理論を確立しました。クリステンセンはイノベーション研究の第一人者であり、イノベーションに特化した経営コンサルティング会社も設立しています。ジョブ理論については、彼の著書である『ジョブ理論 イノベーションを予測可能にする消費のメカニズム』(ハーパーコリンズ・ジャパン2017年)を参考に解説します。

ジョブ理論とは、顧客が商品(製品・サービス)を購入する理由を明らかにして、それにまつわる解決策を提供する一連の考え方で、ジョブを、「特定の状況で顧客が成し遂げたい進歩」としています。

【ドラッカーとレビットの主張】

「人は刃の直径が4分の1インチのドリルがほしいのではない。4分の1インチの穴がほしいのだ。」これはマーケティングの大御所のセオドア・レビットの著書『マーケティング発想法』(ダイヤモンド社1971年)の引用です。「顧客がほしいのはプロダクトではなく、彼らの抱える問題の解決策だ。」こちらはピーター・ドラッカーの言葉です。企業が売れると思って製造した商品が売れる確率は低く、めったにないというレベル感で警告を発しています。

 
セオドア・レビット 4分の1インチのドリル 4分の1インチの穴
ピーター・ドラッカー プロダクト 彼らが抱える問題の解決策

図1 レビットとドラッカーの主張

重要なことは、「なぜ顧客は商品を買うのか?」について、「商品そのものが欲しいから。」と答えるのはマニアや収集家以外考えにくく、実際は、その商品の購買によって、あるいはその商品の使用によって、何らかの問題を解決しているという点です。顧客は商品そのものではなく、その商品によって得られる便益(メリット)を購買しています。

実際に顧客が商品を購入する理由を突き詰めるには、顧客そのものの定義から見直しが必要です。マーケティングの定石では、セグメンテーションとターゲティングという概念があります。自分たちがビジネスを行う領域を定義して(セグメンテーション)、それから自社が狙うべき顧客を特定する(ターゲティング)という考え方です。

本来は、購買理由に応じて市場や顧客を定義するとよいのですが、その理由の分析や整理が難しくて、非常に手間がかかる作業で難航します。そこで企業はいつの間にか属性(性別や年齢や地域等)を顧客ターゲットの指標として用い、購買理由を明らかにする作業を省略し、商品を提供することに焦点をあててしまったのです。

こうなると「なぜ、誰が、何を買うのか?」の中の購買理由がないがしろにされます。そして「誰が、何を買うのか?」ということばかりが議論されるようになり、結果的に、顧客の議論が属性ありきになり、同時に商品開発そのものにフォーカスした組織ができあがるのです。結果的に、商品は良いものだけど売れない、という状況が蔓延します。

ここで再度、ジョブ理論の定義をみてみます。ジョブとは「特定の状況で顧客が成し遂げたい進歩」です。そう、難しくとらえる必要はなく、単純にレビットとドラッカーが指摘したドリルの穴や問題の解決策が重要だという主張と変わらないと考えてよいのです。

【ミルクシェイクのジレンマ】

ジョブ理論の理解を進めるために「ミルクシェイクのジレンマ」を紹介します。企業が顧客ニーズを解決するための手法は様々で、むしろ「ひとつで全てを満たす」万能の解決策は結果的に何ひとつみたさないということが理解できる事例です。

あるファーストフードチェーンでは、「どうすればミルクシェイクがもっと売れるか?」という悩みを持っていました。そこでチェーン店は、数カ月間かけて詳細な調査を実施します。同店は、ミルクシェイクの顧客に対して、次のように質問しました。

「どうすれば、もっとミルクシェイクを買いますか?」「値段?」「量?」「固さ?」「味?」等です。

そのフィードバックを基に、ミルクシェイクの顧客を満足させる取り組みを実験しました。味、パッケージなどの改善です。しかし数カ月たっても期待とは裏腹に変化が起きません。

そこで、別のアプローチに取り組みました。来店客は「なぜ、ミルクシェイクを購入したのか?」という視点にフォーカスしたのです。

ジョブ理論風に表現すると、「来店客がミルクシェイクを購入することで片づける(解決する)ジョブがあるのではないか?」と仮説を持ち調査したのです。特定の商品を買うという行為そのものを引き起こす原因が、来店者の日常の生活に起きているのではという仮説を持ちました。日々の生活のなかでジョブが発生し、それを解決するためにミルクシェイクを雇っている(購入している)としたら、ミルクシェイク問題を解決できると考えました。

調査チームはある日、店頭に18時間立って顧客を観察し続けました。「買う時間帯は?」「彼らの服装は?」「来店時はひとりか?」「ほかの商品もいっしょに購入したか?」「店内で飲むのかテイクアウトか?」等です。

観察結果、午前9時前にひとりで来店した顧客がミルクシェイクを頻繁に買っていることが分かりました。ミルクシェイクだけ購入してテイクアウトするのです。そして車で走り去るのです。

今度は、その顧客に直接、購買する理由を聞き出しました。「すみません、ちょっと教えてください。どうして(どういう目的で)この店に来てミルクシェイクを買ったのですか?」

戸惑う顧客と、「もしミルクシェイクが無かったら何を購入しましたか?」などと会話を続けるうちにドリルの穴が見えてきました。そして共通のジョブを見つけたのです。それは、「仕事先まで、長く退屈な運転をしなければならない。」ということでした。

来店客の多くが通勤時間に気を紛らわせる何かが欲しいという理由でミルクシェイクを購入していたのです。しかも、時間帯からするとお腹は空いていません。そして2時間くらいすると空腹になることがわかります。でも、このジョブを解決するライバル(代替品)は沢山あるのですが、完璧にこなせるライバルは少なかったのでしょう。

顧客の中には、「ときにはバナナを食べますよ。だけどバナナじゃダメなんだ。すぐに食べ終えてしまうからね。で、結局また手持ち無沙汰になるのさ。ドーナッツでは手がべたつくし、運転に集中できない。ベーグルはパサついて喉が詰まってしまう。」と。別の顧客は次のように言いました。「スニッカーズにしたこともあるけれど、この時間に甘いものを食べるのが何だか罪深くて。」と。

しかしミルクシェイクはその中で多数のライバルを蹴落としたのです。粘度が高いミルクシェイクを飲み干すには、相当の時間がかかります。昼までの空腹感を補うにもちょうどよく、運転中も片手で難なく飲むことができました。ミルクシェイクが彼らに雇われ、彼らの問題を解決したのです。

 

第2回では、ミルクシェイクのジレンマからの学びを整理して、ジョブ理論の神髄に迫ります。

ぜひ、経営参謀クラウド 無料体験登録をしていただき、続きをお読みください。

早嶋 聡史

株式会社ビズ・ナビ&カンパニー  代表取締役社長 / 一般社団法人日本M&Aアドバイザー協会 理事

専門領域は、戦略立案、問題解決、M&A。具象を抽象に引き上げてフレームワークを使って分かりやすく整理する事を得意とする。 成長意欲のある経営者と対話を通じた独特のコンサル手法を展開して、 企業の戦略オプションの抽出や日常的な経営判断のセカンドオピニオンを提供。
(実績)
製造業の新規事業開拓支援・海外進出支援 会計事務所の業務効率化支援、医院の経営効率化支援、建設業の経営効率化支援、リフォーム業務のFC展開支援、ソーシャルビジネスの継続支援、 飲食業ブランド浸透支援、農産物販売促進支援、健康食品企画販売会社販促支援、製麺機製造販売業の戦略策定支援、不動産貸付業の戦略立案支援 地方自治体の地方創世戦略策定支援、その他多数。

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