ES向上のためには成功事例を知るより、分析を

公開日 2017/12/01

執筆者: 総合営業本部 執行役員 元木 幹雄

はじめに

前回のコラム「ESサーベイのスコアは、どう分析する?」では、3つのフレームワークを紹介しながら、その方法を伝えてきた。 しかし、いくら分析しても、ES向上のための効果的なアイデアが見つからないことも。 また、あれこれ考え、何とかアイデアを捻り出し、上司に提案したところで「コストがかかり過ぎる」「現実的ではない」「本当に効果が上がるのか?」とあっさり却下されることもある。 なんとか上司に承認してもらったとしてもここがゴールではない。アイデアを具体的な形にして、従業員に展開しても、そっぽを向かれてしまうこともしばしばだ。

そんな時に頼りたくなるのが「成功事例」

弊社において、ESサーベイの実施を受託し、経営者向けの報告会場面でも、あるいは事務局に対して分析方法をお伝えする場面でも、「で、何をすれば良いのか?」がお客様の合言葉。 ただ魔法のような唯一絶対の対策があるわけでもなく、各社に必要な対策は、それぞれ異なるはず。 それがわかると、「ならば他社事例をたくさん教えて欲しい」というのだ。他社事例の中には、きっと自分たちに当てはまる事例があるはずだ、という意図が見え隠れする。 こうしたニーズに対し、確かに「人事制度系の施策の見直し」「従業員の育成や成長支援」「コミュニケーション強化」「業務改善」「生活支援」「健康支援」「従業員の承認欲求を満たす施策構築」「家庭サービス強化」等々、多岐にわたる事例があり、結果的にESサーベイのスコアが良くなったということを紹介することは可能だ。
しかし、どんな素晴らしい施策であっても、背景説明もなく、従業員に展開すれば、そっぽを向かれることは確実である。ES向上どころか「会社は面倒な施策を展開しはじめた」と従業員の不満を募らせかねない。 つまり、「WHAT(何をするのか)」も大切だが、それ以上に「WHY(なぜするのか)」をきちんと整理し、示さねばならない。

「何をするのか」よりも、「なぜするのか」が重要

ある会社の事例を紹介しよう。 ここ数年で劇的に業務負荷が増大し、従業員が上司や同僚との雑談をすることすら減ってしまうような状態で、一言で言うとコミュニケーションがなくなった。そこで「定期的な上司と部下との面談機会の推進」「サンクスカード(感謝の気持ちを相手に伝える仕組み)の導入」「忘年会や新年会」「クラブ活動への費用補助」等々を打ち出し、従業員同士のコミュニケーションの促進の機会を増やしたのだ。 翌年、ESサーベイの結果がどうなったのか。部門別に「コミュニケーションに関するスコア」見事に高低が分かれた。ある部門ではスコアが上昇したのだが、ある部門ではスコアが下降したのだ。 理由がわからず、それぞれに部門の従業員にインタビューをしたところ、次のようなことがわかった。 スコアが上昇した部門の従業員は「上司との面談は、正直気乗りしなかったんだけど、やってみたら悪くなかった」「サンクスカードをもらって、ちょっとうれしかった」「忘年会で、あまり話したことがなかった人と話ができて良かった」と口々に想定通りの回答が得られた。 一方、スコアが下降した部門の従業員は「上司と面談したら、いきなり淡々と説教されてしまった」「サンクスカードがもらえなかったら人事評価にて減点すると言われた」「子供がいるので忘年会に参加できないと断ったところ、役員が参加するんだから、参加するのが当然だろうと上司に強要された」と口々に恨み節が語られる。ここで得られた教訓は、同じことをやっても、現場の管理職の展開次第で、全く異なる結果になってしまうということ。 スコアが下降した部門では管理職が、経営から下ろされた施策を、ES向上やコミュニケーションをとる、という意図を忘れて展開している。一方、スコアが上昇した部門では管理職が、意図を汲み取って展開しているのだ。 つまり、他社で成功したと言う事例を、そのまま展開しても、上手くいくかどうかは運用次第。特に現場の管理職が、意図を汲み取って展開しなければ逆効果になる。 「何をするのか」よりも、「なぜするのか」といった意図をきちんと、現場に浸透させなければ、どんなに良い施策であっても、失敗する好例である。

まとめ

「なぜするのか」を伝える際を想像して欲しい。 最近、なんとなくコミュニケーションが減ってきたし、職場に問題は山積みだと思うので「対話会を企画して、職場の問題点をみんなで話し合おうと思います」と提案されるのと、昨年と比較して、70%もの従業員が、コミュニケーションがなくなったと回答しており、この回答者の90%は職場において問題があると回答しているので、「対話会を企画して、職場の問題点をみんなで話し合おうと思います」と提案されるのとでは、どちらの説得力があるのか。提案内容はどちらも一緒である。前者では説得力はなく、後者では説得力が感じられないだろうか。説得力を持たせるためには、意図をより具体的に伝えることが不可欠である。そのためには、ESサーベイの結果に基づき、分析することが重要なのだ。よろしければ是非、もう1度、前回のコラム「ESサーベイのスコアは、どう分析する?」を読んでもらいたい。

 

執筆者紹介

元木 幹雄

総合営業本部 執行役員

元木 幹雄

Mikio Motoki

人事教育コンサルティング会社及び遠隔通信制(オンライン)ビジネススクールにて営業や企画スタッフを経験後、2001年に富士ゼロックス総合教育研究所(現 パーソル総合研究所)に入社。人事制度及び人材育成制度の導入・定着に向けたコンサルティング、人事情報システムやタレントマネジメントシステムの導入支援、リサーチ&アセスメントの企画・実行支援に従事し、現在に至る。産業能率大学大学院経営情報学研究科(MBA)修了。

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