日本的ジョブ型をどう捉えるか

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ジョブ型人事制度や職務給への関心が高いが、いまだにそれらを取り巻く議論は迷走している感がある。そこで本コラムでは、ジョブ型人事制度の導入状況を確認するとともに、導入の背景は何か、「日本的ジョブ型」とは何かを整理し、今後の検討の方向性を考察する。

  1. ジョブ型への関心が高まる背景は「人件費の合理性」と「タレントマネジメント」
  2. 日本のジョブ型人事制度の捉え方
  3. ジョブ型人事制度導入企業の3つのタイプ
  4. 専門職と一般社員層のタレントマネジメントが課題
  5. まとめ

ジョブ型への関心が高まる背景は「人件費の合理性」と「タレントマネジメント」

ジョブ型人事制度や職務給への関心が高い。パーソル総合研究所の調査※1ではジョブ型導入企業が18.0%であり、導入検討企業の39.6%と合わせて57.6%がジョブ型導入済・導入検討企業だ。日本能率協会の調査※2でも、ジョブ型の人事・評価・処遇制度を何らかの形で導入している企業が2割以上で、導入検討中の企業は4割台、合計すると6割を超える。

ジョブ型の導入目的(複数回答)としては、パーソル総合研究所の調査では、「従業員の成果に合わせて処遇の差をつけたい」が65.7%と最多で、「戦略的な人材ポジションの採用力を強化したい」(55.9%)、「従業員のスキル・能力の専門性を高めたい」(52.1%)がそれに続く。同じく、日本能率協会の調査では、「役割・職務・成果を明確にし、それらに応じた処遇を実現するため」が74.6%と最も多く、「専門性の高い人材を育成・活用するため」「社員のキャリア自律意識を高めるため」が4割前後でそれに続く。2つの調査結果はほぼ同様で、仕事に応じた処遇を行い「人件費の合理性」を高めることをジョブ型の導入目的とする企業が多いということだ。そして、導入目的のもう一つの柱が戦略的人材の採用強化、専門的人材の育成・活用などの「タレントマネジメント」の推進である。

※1 パーソル総合研究所『ジョブ型人事制度に関する企業実態調査』
※2 日本能率協会『当面する企業経営課題に関する調査―組織・人事編2023』

ジョブ型人事制度・職務給の導入背景を[図1]に整理した。
ジョブ型人事制度や職務給は、「人件費の合理性」を高めたいという企業ニーズによって導入が進められている。能力主義人事制度の年功運用による処遇の歪みを是正したい企業は多い。能力主義人事制度の場合、特に、管理職層については歪みが大きく、同一等級であればライン管理職も専門職も「そのどちらでもない人」も似たような基本給を支給されることになりがちで、職責や役割の重さと給与処遇の不整合を看過できなくなっている。また、雇用長期化の影響も見逃せない。60歳から65歳へ、さらには70歳への雇用延長が求められる中で、給与を仕事に応じて決めていく必要性が高まっている。

ジョブ型や職務給が注目される背景にあるものは、人件費の合理性だけではない。ある面、それ以上に重要だと思われるものが、適所適材の採用・リテンション・配置など、すなわち「タレントマネジメント」上のニーズだ。これまで日本の給与相場は業種や企業規模、年齢による違いに比べて職種による差はさほど大きくなかったが、IT系など採用需給がタイトないくつかの職種では、他職種より高めの職種別給与相場が形成されつつある。そのような職種では、自社の標準的な給与水準では採用できず、リテンションもできない。また、多くの企業が経営環境の変化に対応すべく事業戦略やビジネスモデルの再構築を進める中で戦略的ポジションを担う人材の奪い合いが激化しており、人材確保のためには競争力ある給与の提示が欠かせなくなっている。加えて、社内でも、ポジションニーズに応じた若手人材登用の必要性が増すと同時に、若手人材の「自分で仕事を選びたい」という傾向が顕在化してきている。

図1:ジョブ型人事制度・職務給の導入背景

図1:ジョブ型人事制度・職務給の導入背景

出所:筆者作成

日本のジョブ型人事制度の捉え方

このように、ジョブ型人事制度と職務給が求められる背景には、人件費の合理性とタレントマネジメントの両面のニーズがあるわけだが、多くの場合、処遇論が先行しているように見える。

労務行政研究所の調査※3によると、一般社員層では職務給導入企業・役割給導入企業がいずれも24.6%、管理職層では職務給導入企業が26.1%、役割給導入企業が44.2%である。

ジョブ型人事制度を狭く定義すると、「各ポジションの職務記述書を作成し、職務評価によって職務グレードと職務給を決める制度」ということになるだろうが、パーソル総合研究所の調査※4では、ジョブ型人事制度を導入しているという企業でも職務記述書を作成しているとは限らない。

「職務記述書がないのであればジョブ型とはいえないのでは?」と考える向きもあろうが、「日本企業におけるジョブ型人事制度とは何か」という意味では、前掲のパーソル総合研究所の調査でも日本能率協会の調査でも「仕事に応じた処遇の実現」をジョブ型の主な導入目的としている企業が多い。その企業が自社の制度をジョブ型と位置づけ、職務給や役割給を導入しているのであれば、それはジョブ型人事制度の一つの形であると捉えるべきだろう。

ジョブ型人事制度を広めに定義すると、「職務給や役割給など、仕事基準の給与を基本給の主な構成要素にしている制度」ということになる。そうすると、一般社員層で5割、管理職層で7割の企業が既に“ジョブ型人事制度”を導入していることになる。

※3 労務合成研究所 「基本給の昇降給ルールと賞与制度の最新実態」(『労政時報』第4054号)
※4 パーソル総合研究所「職務給に関するヒアリング調査」

ジョブ型人事制度導入企業の3つのタイプ

前掲調査※4で、職務給や役割給を導入している企業は3つのタイプに分類できることが分かった。[図2]は、その調査結果を要約したものだ。

タイプ1「グローバル志向型」は、職務記述書を作成する狭義のジョブ型だ。手間をかけて職務記述書を整備し職務調査を行う一方、給与レンジは職務グレード間での逆転現象が起こりうる重複型の場合もある。先に向けても給与は重複型でよいと考えているわけではなさそうだが、給与序列よりも「職務記述書を起点にした説明可能な人材マネジメントシステムの整備」に優先度があるということだろう。

タイプ2「組織長厚遇型」は、「グローバル志向型」とはかなり異なっている。「課長より部長が上、部長より本部長が上」という役職位序列ありきで、給与序列をそれに揃えようという強い意図がみられる。職務記述書は作成せず、給与は課長=50万円、部長=70万円、本部長=90万円というようなシングルレートの企業もある。ライン管理職と非ライン管理職との処遇差も明確だ。裏返すと、ジョブ型導入以前はそうではなかったということで、「処遇バランスの適正化」に優先度がある。

タイプ3「フレキシブル型」は、名称の通り、柔軟に「職務給的要素の導入・強化」を行おうとする企業だ。ガチガチのジョブ型・職務給というわけではなく、給与面ではポジションに応じて大枠は決まるものの人事評価に応じたアップ・ダウンを重視するという意味で、成果主義的志向が強い。

図2:ジョブ型人事制度導入企業のタイプ分類

図2:ジョブ型人事制度導入企業のタイプ分類

出所:パーソル総合研究所「職務給に関するヒアリング調査」

このように、3つのタイプは職務給や役割給を導入しているものの方向性が異なっており、「フレキシブル型」や「組織長厚遇型」の企業が、狭義のジョブ型である「グローバル志向型」を 《あるべき姿》と考えているわけではない。それぞれ並列・併存的な位置づけにある。

広義のジョブ型である「組織長厚遇型」と「フレキシブル型」は、職務記述書を作らない、社命異動を重視しているなどの点からみて、「給与制度改革」の色合いが濃い。特に「組織長厚遇型」では管理職層に専門職の設定がない制度も散見され、人件費の合理性、すなわち職責と給与の整合性向上に特化した施策と見えなくもない。

専門職と一般社員層のタレントマネジメントが課題

人件費の合理性は重要だが、同時にタレントマネジメントのニーズへの対応をおざなりにしてはならない。ジョブ型人事制度導入企業の実態を見ると、ライン管理職については、3つのタイプとも相応に定義され、適所適材の配置施策が進みつつある。しかし、専門職については、業種による濃淡も大きいが、ライン管理職と比べると取り組みが消極的だ。まずはライン管理職からという優先順位は理解できるものの、専門職については概して課題が大きい。自社にとって不可欠な専門職ポジションを定義するところから始めなくてはならない企業が多くありそうだ。

また、一般職層については、管理職層にジョブ型を導入しても一般社員層には導入しないという企業が珍しくない。そもそも、日本の給与相場は、ほとんどの職種については職種よりも企業の業種や規模に左右される。その意味では職種別の職務給編成はあまり現実的ではなく、一般社員層の従業員にとってのジョブ型とは給与というよりもキャリア形成の問題と見るべきだろう。

この「従業員にとって」という部分は重要だ。昨今の若手人材は、「やりたい仕事が就職時点で決まっていて配属を約束しなければ入社しない」。さらに、「入社後も異動・配置先が希望に沿わなければ退職してしまう」「昇進・昇格のスピード感を重視する人も多い」との声を耳にすることが増えてきた通りだ。企業と従業員が「選び選ばれる」関係になった昨今では、一般職層のジョブ型は職務給よりも手挙げ異動施策を中心に据えて考えるほうがよさそうだ。一般社員層に限らず管理職層も含め、長期雇用の枠組みの中にある日本企業にとってのジョブ型はキャリア形成上のイシューだと捉えるべきだ。

まとめ

ジョブ型人事制度や職務給に対する関心が高まっており、その背景には「人件費の合理性」の向上と「タレントマネジメント」推進のニーズがある。企業におけるジョブ型の導入は、大きく「グローバル志向型」「組織長厚遇型」「フレキシブル型」という3つの異なるアプローチに分類できるが、概してライン管理職に焦点が当たっており、専門職や一般社員層はおざなりといえなくもない。

長期雇用慣行下の日本企業におけるジョブ型制度は職務給の導入だけでなく、むしろ、従業員のキャリア形成やタレントマネジメントの観点から考えるべき課題である。

執筆者紹介

藤井 薫

シンクタンク本部
上席主任研究員

藤井 薫

Kaoru Fujii

電機メーカーの人事部・経営企画部を経て、総合コンサルティングファームにて20年にわたり人事制度改革を中心としたコンサルティングに従事。その後、タレントマネジメントシステム開発ベンダーに転じ、取締役としてタレントマネジメントシステム事業を統括するとともに傘下のコンサルティング会社の代表を務める。人事専門誌などへの寄稿も多数。
2017年8月パーソル総合研究所に入社、タレントマネジメント事業本部を経て2020年4月より現職。


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