公開日:2024年3月29日(金)
調査名 | 職場での対話に関する定量調査 |
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調査内容 | ・職場内での種々の対話的なコミュニケーションの実態とその影響を明らかにする。 ・本音・本心で話せない要因・話せる要因を個人レベル・組織レベルで明らかにする。 |
調査対象 | ■全国の男女・正規雇用就業者(年齢20-64歳) -令和2年国勢調査で性年代を割付 -合計6000s -※一部業種除外、役員以上の役職者を除外 ■【補論】で用いた分析データは、エール株式会社から提供。 複数回の対話セッションのデータをパーソル総合研究所にて分析した。 |
調査時期 | 2024年1月17日-22日 |
調査方法 | 調査会社モニターを用いたインターネット定量調査 |
調査実施主体 | 株式会社パーソル総合研究所 |
※図版の構成比の数値は、小数点以下第2位を四捨五入しているため、個々の集計値の合計は必ずしも100%とならない場合がある。
調査報告書(全文)
職場での会話機会のうち、本音で話せている割合を算出すると、上司との面談で41.6%、チーム内の会議で43.0%が「全く本音で話していない」と回答。本音で話せる割合が「2割未満」を合わせると、過半数の従業員が、上司面談・会議において本音・本心をほとんど話していない。
職場で本音を話せる相手を聴取した。職場内に本音で話せる相手が「1人もいない」が50.8%と高くなった。本音を話せたと感じる会話内容は「職場や会社に対する疑問、不満」が最も多く、25.2%。
職場の対話状況(メンバーが本音や自分の意見を話せていると思う)や、社内での本音コミュニケーションの割合(自分がどのくらい本音で話せているか)を職位別に尋ねたところ、一般社員・従業員は本音を出せていないと感じているが、事業部長や役員は職場メンバーも自分も本音で話せていると感じている傾向が強く、職位によって、認識のギャップが極めて大きいことが分かる。
本音で話す度合いの高低別*に特徴を見たところ、本音で話せている人(本音度_高層)ほど、ジョブ・クラフティング(自分に与えられた仕事を主体的に捉え直すことで、やりがいのあるものに仕事を創り変えていく取り組み)、ワーク・エンゲイジメント(仕事に対しての活力・没頭・熱意といったポジティブな心理状態のこと)、個人パフォーマンス(主観)、はたらく幸せ実感(はたらくことを通じて、幸せを感じている状態)が高く、はたらく不幸せ実感(はたらくことを通じて、不幸せを感じている状態)は低い傾向が見られた。
*分布に合わせた3層での高低比較
本音でコミュニケーションすることへの関心度合いと、実際に本音でコミュニケーションする割合の関係を見た。「自分の気持ちを素直に表現することは大切だ」などの「自己の本音への関心」が高い層と、「相手の話をきちんと聞くことは大事だ」などの「他者の本音への関心」が高い層は、ともに本音でコミュニケーションをする割合が高い。
本音で話せるコミュニケーションは、メンバーが何に詳しく・関心が高いかを知っている「メンバーの知識・関心に対する知識(トランザクティブ・メモリー)」を蓄積し、組織の中で変化を起こすことは大変であり、今のままでいいとする意識「変化抑制意識」を低下させる。また、これらによって、それまでの知識を捨て、仕事のやり方・手続き・考え方などを変える「アンラーニング(学習棄却)」が起こりやすくなっている傾向が見られた。
従業員は、職場で本音を話すことについて、主に6つのリスクを感じている
① 裏切り者リスク:組織に愛着が無いと思われそう
② 拡散リスク:意図しない範囲に広まりそう
③ 低評価リスク:自分の評判が下がりそう
④ 身分不相応リスク:自分の立場では言えない
⑤ 無関心リスク:真剣に受け取ってもらえなそう
⑥ 関係悪化リスク:相手との関係が悪くなりそう
性年代別のリスク意識の高低を、ヒートマップで見た。女性の30-40代は全体的にリスクを感じる傾向が強い。特に、自分の立場では言えないと意識する「身分不相応リスク」が女性は強く、男性の30-40代は、組織に愛着が無いと思われそうであることを意識する「裏切り者リスク」を強く感じている傾向が見られた。
6つのリスク意識を高め、本音を話しにくくする職場の特徴を見た。会社都合の異動の多さ や、社内キャリアパス・ポストがわからないなどの「キャリアの主体性の欠如」、長時間労働が是正されないなどの「時間の裁量権の欠如」、仕事のやり方を決められない、顧客の意向が絶対視されるなどの「業務の自律性の欠如」が強い職場は、本音を言うことへのリスク意識を上げていることが示された。
本音で話しにくい相手を特定し、その特徴を聴取した。最も本音を話しにくい相手の特徴として、自分の話に関心を示さなそうだなどの「自分への無関心」が最も高い。次に、意図しない相手に話が伝わってしまいそうだといった「漏洩不安」が高い。
本音で話しにくい相手の特徴を属性別に見た。すべての特徴で「上司」が最も高くなっていた。
意図しない相手に話が伝わってしまいそうだといった「漏洩不安」は「同僚」「仕事関係の知人」でも高く、自分の話をわかっているフリをしそうだといった「詐欺的態度」は「カウンセラー」でもやや高い。
本音で話せる相手を特定し、その特徴を聴取した。話を親身に聞いてくれるなどの「傾聴的態度」が高い。話す頻度が多いといった「環境的要因」は低い傾向にあった。
今回の調査では、多くのビジネスの現場が「本音」「対話」の欠如したコミュニケーションで覆われていることが明らかになった。表面的で本心を包み隠すようなコミュニケーションを行っている従業員は、仕事の創意工夫やはたらく幸せ実感も低く、職場改善のような仕事の変化を起こしづらくなっていることが明らかになった。
なぜ従業員は職場で本音を話せなくなるのか。組織に愛着がないと思われる「裏切り者リスク」や、自分の評判が下がるかもしれないという「低評価リスク」などの6つのリスク意識が従業員を本音から遠ざけていることが示された。背景として「キャリアの主体性の欠如」、「時間の裁量権の欠如」などの人材マネジメント上の特徴がそれらの意識を高めていることも示唆された。また、本音で話せない職場で働いている者は、他者との対話そのものへの関心や自身の本音への関心も低くなっており、ますます対話から遠ざかってしまう構造が示唆された。
対話を促進したい組織は、本音・本心を話してもリスクがない状態を、組織レベルで構築することが必要になる。現在多く行われている上司向けの対話に関するトレーニングだけでは、こうした要因を取り除くことは難しいだろう。組織レベルの要因が放置されるだけでなく、上司・部下の間にある対話への「認識ギャップ」が埋まらないからだ。対話の重要性が今後も強調される中で、フォロワー(メンバー)へのアプローチを含めた包括的な手段を検討したい。
※本調査を引用いただく際は出所を明示してください。
出所の記載例:パーソル総合研究所「職場での対話に関する定量調査」
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